この木の周りは、特産品「蒲郡ミカン」の畑が広がっています。このミカンは、静岡県の「三ヶ日ミカン」と並んで優れた品質を誇るブランドミカンです。したがって、大きな環境変化を受けずに過ごしてきたのですが、多くの人が根元に近づくために、踏圧で周囲の土壌が硬くなってしまいました。そのため細根の発達が不十分になり、枝先端の小枝の枯れが目立つようになっていました。
折も折、この地方を襲った台風のために海からの潮風が吹き付け、枝の枯れ、折損被害が多発したのです。太い根は25m以上の範囲で、2m以下の深さまで張っていますが、小枝の生育に必要な細根は浅いところで、枝張り範囲に集まっています。そこで被害を受け衰弱した梢や小枝の回復を図るために土壌改良処置を講じることになりました。
作業は愛好会のボランティアの方々と蒲郡市博物館の職員、愛知県教育委員会の職員とともに、私の指導で行いました。2010年から3年間、夏期、初冬期、年明け(このあたりは温暖なので冬でも寒くない)の農閑期に実施しました。
土壌のほぐし、葦の刻み、現場撹拌、バイオビリオン散布と、誰でもが安全に従事できる仕事です。しかも、今回バイオビリオンについてはペレットを使用し、扱いの簡便さ、水を使わないため足下土壌がぬかるみ状態にならないなど、作業工程の順調な進行を確保できるよう工夫しました。
手順は以下に示すとおりです。
1 硬くしまった表土の確認

2 細根発達の可能性を調べる

3 区画を切り、細根発達のためのベッドを作る。

4 3の作業と並行して、刻み葦を準備しておく。

5 刻み葦を区画ごとに現場撹拌する。露出根を乾燥させないよう、作業は区画ごとに順次、
分担制で手早く行う。

6 刻み葦にバイオビリオン・ペレットを散布・混入する。

7 表土を軽くのせ、刻み葦の飛散を防ぐ。表土をのせすぎないよう配慮する。

8 ここでは市民から不要なよしずを集め、リユースして夏期の乾燥に備える工夫をした。

9 いつまでも元気で!と祈りを捧げる。

バイオビリオン・ペレットの長所を活かし、水のないところや水を使わないで作業を円滑に進めたいところでの作業手順として、皆様も活用してくだされば幸いです。
なお、葦を使うのはバイオビリオンの性能を最大限引き出し、土壌を「発酵状態」に導くために有効な素材だからです。おまけに河川敷でただで手に入ります。国交省の事務所に書類一枚出すだけですみます。青刈りして保存しておくと、きわめて重宝します。
大きな木を訪ねるのは楽しい旅です。ミカンの色づく頃、一度清田の大楠を訪れてみませんか。
岐阜大学名誉教授 農学博士 林 進(愛知県在住)
|