この宿を特別なものにしているのは、「昭和天皇御駐泊記念」の松です。昭和22年に昭和天皇がこの地を訪れ、宿泊されたのですが、当時は「行幸」という表現が許されなかったようで、軍隊用語の「駐泊」と記されています。GHQ支配下の日本の状態が伝えられている貴重な松です。
この松が放置され、弱っていたのですが、それを憂えた加賀屋の小田会長(現相談役)が、「絶対に回復させて欲しい」と私に依頼され、治療に従事してきました。その結果を見極め、「松の碧」として加賀屋チェーンの宿の中でも別格の場として開業されました。門を入って右側にこの松があります。小さな黒御影だけがその歴史を伝えています。

左端が昭和天皇御駐泊記念の松。放置されていたからか、成長が悪かったようです。
この宿の玄関には、「お迎えの松」が植えられています。この松も衰弱した状態だったので、会長から「絶対に・・・」と依頼され、なんとか回復途上にまでもってきました。

さらにこの宿を特徴付けるのは、ロビーから眺める主庭です。海に面する庭園は松だけで構成されています。モチーフは、長谷川等伯画伯描く「松林屏風図」です。これも「一本も枯らせない」という覚悟をもって活着させ、育てています。優しい七尾湾と能登島の風景にぴったりの松の庭です。

夜には穏やかな明かりに照らされ、旅の心を癒やしてくれます。バイオビリオンが演出する宿、「加賀屋別邸 松の碧」を訪ねていただき、満たされた刻をお過ごしいただければ幸いです。
岐阜大学名誉教授 樹木医学者 農学博士 林 進
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