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原発事故後の放射性物質の土壌除染への提言

岐阜大学名誉教授
農学博士 林 進

■はじめに

 今回の大震災後の復興につきましては、多方面からの創造的な提案と実行体制の構築が必須となっています。「未曾有」という表現では表せないほどの自然災害に加えて、科学技術の粋を集めていたはずの原発で事故が発生し、未だ解決の見通しすら立っていない現状に対しては、私たち一般民間人はともすれば「無力感」に陥りがちです。
 私たちは確かに自然災害を予測することも,防御することもできません。できるだけ回避し、軽減するための方策を講じるのが「事前の策」として精一杯のことになりましょう。しかし、災害が起こってしまった後でどうするかについては、私たちが持っている限りの知恵や技術、あるいは力を総結集することを起点としなければ、災害復旧も復興も可能にはなりません。
 今回の災害、とりわけ原発事故により広範囲の地域に土壌汚染が広がったことに対しては、あらゆる分野・立場からの提言と実行がなされなければならないし、またそうすることが私たちに課せられた責務といっていいでしょう。汚染土壌は地表面数センチか、深くても30センチまではいかないと言われています。だから表土を除去すれば下部は安全な水準に達することができます。しかし、除去された表土をどうするかについて対応しなければ、土壌汚染問題の解決はありません。
 表土除去が最も有効だという考え方は、除去土壌をどうするか、あるいは壌土が除去されない部分をどうするかの課題を放棄した上でしか成り立ちません。なぜなら永久に表土を除去し続けることはできないのですから。
 思い返してみれば、根本問題に目をふさぎ、即応可能な範囲に限定して原発の安全性を評価しようとしてきたことが、今回の震災・原発事故を招いたのではないでしょうか。総合的、複合的な視点の欠如が重大な結果をもたらすことを繰り返すべきではありません。 個別の農家や市民レベルでは「座して待つよりは少しでも」という発想での取り組みが始まっています。大規模な工事である広範囲にわたる表土除去と移送・堆積は、とても農家・市民レベルでできるものではありません。国や自治体が取り組むべき対策でしょうし、これは当然「費用対効果」の原則に則り予算化され、事業が遂行されます。だからこそ、「最も効果の髙い対策」を提起する必要があるのです。
 しかし、農家・市民レベルでは原理が異なります。ここでは「簡易性」と「持続性」が基本原理になります。この両者を混同せずに両立させる対策を実施していくことが,現在強く求められています。
 このような考えに立ち、私は「微生物による土壌および植物生理作用の活性化」の視点から以下に示すような提言を行います。

■最重要な課題としての土壌除染

 広範囲に渡っている土壌汚染をどうするかは、今後の地域再建・復興を図る上で喫緊の課題であるといえます。土壌汚染は農業、畜産、漁業、地下水利用など「大地の恵み」をもたらしてくれる生産活動、資源利用に最も深刻な影響を与えます。すべての暮らし基盤をナットしてでも早期に正常に戻すのが、今私たちに与えられている最大の課題です。
 土壌除染にあらゆる分野からの対応を図るために国による研究機関の設置を求める有識者の声がありますが、国を含めて公共の動きはきわめて遅いように思われます。本格的な土壌除染研究機関の設置を待たずに、まず現有の知識や技術、あるいは製品を投入し、結果を検証しながら最も有効な方策を見いだしていくという、現場順応型ないしは照査法的な柔軟な対応が正しい方向であると私は確信しています。

■バイオビリオン活用により達成してきたこと

 私はバイオビリオンにより土壌と植物根系の活性化を図ることを、私自身の樹木医学の核としてきました。その技術により、私が目指してきた「土壌発酵」と「光合成活発化と土壌活性化の並進」を柱とした衰退樹木の再生治療への道を切り開いてきました。
 特にイネ科の植物との「相性 」のよさを見いだしたことは大きな成果です。イネ科の植物は、光合成生産物を根系を通して一部土壌中に還元します。それを利用して土壌微生物が活性化するプロセスが働き、根系成長に有効に作用します。地上部の光合成能力が高まれば高まるほどこのプロセスは高度に持続し、土壌も樹木も活性化していくのです。
 樹木や植物が生長するために必要な細根(生活根)は、地表部からせいぜい50cm範囲に分布する場合がほとんどです。したがってこの部分さえ改良していけば、上部の成長条件は十分に確保できます。言い換えれば、大げさな土の入れ替えなしに、表土改良のみで「土壌改良成果」を達成することができます。これは、ちょうど森林土壌が上から順次改良され、蓄積されていくのと同じようなプロセスだといってよいでしょう。
 バイオビリオンを核にした土壌改良効果は、細根発達において特に如実に現れますが、細根をあまり持たない、いわゆる「ごぼう根」のようなものでも同じ効果を期待できることは、現場実証で確かめています。植物の種や根の形状を問わず、バイオビリオンを活用した技術の有効性は,きわめて広いといって差し支えありません。

■植物による土壌除染方法

 植物による土壌除染は、これまでも世界各地で実施されています。私が見た最も典型的な事例は、旧東ドイツ国内でのウラン鉱石残滓の処理現場です。露天掘りと野積み放置により、旧体制のもとでは広大な区域が汚染されたままにされてきました。ベルリンの壁崩壊と共に除染事業が導入され、「死んだ大地の復興」が図られたのです。
 私が訪ねたとき、眼前に見たのは地平線まで続くようなヒマワリ畑でした。これでまず第一次的な除銑を行い,その後にカンバ類を植えて大地を生き返らせ、人が立ち入り土地活用ができるようにするという計画が実行されていたのです。確かに、ヒマワリ畑の中に島状に形成されたカンバ類の樹林地を見ることができました。鉱業、工業によって引き起こされた害は、工学によっては解決不可能で、植物学の知識と技術に寄らなければ解決できない、そのような趣旨のことをドイツ人科学者は私に説明してくれました。
 土壌を汚染した放射性物質が,植物体内においてどのような挙動を示すのか、またどれだけ有効なのか私は詳細なデータを持ち合わせていませんが、植物の生理作用や生合成作用を通じてしか、広範囲に拡大された放射性物質による土壌汚染を解決できないことを、国家的プロジェクトとして推進していたドイツに対して、私は心底からの賛辞を惜しみませんでした。その時には、何年か後に日本で同じような対応を迫られることになろうとは、夢想だにもしませんでしたが、今、あのときの光景を鮮やかに思い出し、ドイツで行われていたことを一層に高度化して今の日本でできるのではないかと考えています。
 また、短期における実質効果は小さいからといってその手法を採用しないよりも、長年月かけてでも少ない効果を積み上げていけば、必ず一定の到達点に達することができるという思想は決して軽視されるべきではないと、私は考えています。汚染した環境は、私たちの責任でなんとしてでも解決に導く、そのための努力はどんな些細なことでもやり遂げていく、その覚悟がなければ「所詮人ごと」に終わってしまいます。それを放棄することは決して許されることではありません。
 0.1の効果でも10年で1になり、100年で10になる、そこまでの発想を持つだけの「知性」の存在が、今、問われているのはないでしょうか。

■樹木医学を環境医学へと発展させる

 植物の基本作用である光合成を軸に、土壌中の汚染物質を植物体内ないしは根系周辺に蓄積・集中できれば、また表土を除去した部分と汚染土壌が存在している部分とを分離して対策を講じることができれば、土壌中に拡散している状態よりも遙かに効果的な除染が可能になります。地上部の光合成産物に対しては、無害な状態での一次処理か、無害化して利用する二次処理かのいずれかを行えばよいでしょう。この分野で新規起業が図られれば、「災い転じて福となす」ことも可能でしょうし、「植物による除染技術」の発達にもつながります。あまり使いたくない技術や事業形態ではありますが、事ここに至ってはやむを得ないことと考えなければなりません。
 バイオビリオンは、樹木医学に最適な素材として活用されてきました。その成果は樹木や作物の活性化をもたらしてきました。今、それに加えて、東日本の土壌汚染を解決するために、大胆かつ先端的な実証体制を築いていくことができれば、バイオビリオンを「環境医学」素材としてさらに価値を高めることに導いていけるのではないか、私はそう考えています。
 バイオビリオンは安全な素材です。誰でもどこでも取り扱いが可能です。市民、農民、植物技術者など誰でもこの実証体制に参加できます。かつて私が見たドイツの国家プロジェクトのような仕組みを包摂し、広く社会的な体制の組み立ても可能です。「土壌除染パブリック・ワークス」この中心に私たちバイオビリオン技術者が位置し、原発事故被災者への技術的支援拠点が形成されればと、私は願っています。

■土壌除染のプロセス提言

(1)植物体内への集中

 私がかつて見たドイツでは、ヒマワリ→カンバ類植林の除染プロセスが実行されていました。これはヒマワリの持つ生理作用とカンバ類の持つ早期成長度の高さを利用したものです。日本では早期育成可能→早期製紙資源化可能樹種としてカンバ類の植林が推奨されましたが、ドイツではそれに加えて土壌除染効果を付加したのでしょう。その結果について詳細なデータを私は得ていませんが、早生樹種なので短い期間(とは言っても25年程度が1つの周期ですが)に何度か更新できるので、他の樹種より除染効果が期待できうるとの説明を、当時の担当者が語っていたことを考えると、ポイントは一定期間内の光合成生産物量にあろうかと思います。
 光合成生産量のレベルは、光合成能力と光合成速度によって決まります。光合成能力は植物の活力度(一枚の葉の光合成能力も含む)に依存すると考えていいでしょうし、光合成速度は光や温度環境に対応する植物の感受性(光合成作用の立ち上がりレベルや持続範囲)に依存するといえます。
 土壌中の汚染物質は、人間にとっては有害でも植物や微生物ではそうではないことは多々見受けられます。植物や微生物は現在よりも遙かに危険な地球環境を緩和してきた生命史を受け継いでいるからでしょうか。キノコなどはさらにこの作用が強く、チェルノブイリ事故の場合には、ヨーロッパ全土に渡ってキノコ採取が禁止されたほどです。キノコは、共生や寄生のかたちで森の樹木に依存しています。キノコの作用はこの意味で、広い概念での汚染物質と植物との関係を示す内容を持つといってよいでしょう。森でのキノコ狩りが大きな楽しみであったヨーロッパの人たちの不安と不満とは別に、この事実は改めて「森の世界」の重要さを示す逸話となりました。
 土壌汚染物質は「できるだけ速く、高度なレベルで植物体に集約する」というのがドイツ流のやり方だったといえますし、これは今でも正しい方向です。ただし、すべての植物体内に放射性物質がどのように取り込まれ、蓄積あるいは濃縮されるのかを解明するには、実証データをさらに積み重ねなければなりませんが、このような最も基礎的といってよいレベルから取り組むことこそが事故の結果を代償し、将来的には事故を回避する姿勢を確立していく上で重要だと私は考えます。

(2)C4植物の活用と弱点消去

 「できるだけ速く」ということからは、光合成速度の課題が浮かび上がります。そのためにはC4植物(注)の活用がポイントになります。ただし、この種の植物は活発に生命作用を営むことにより、土壌を貧困化させる恐れが発生します。したがって、土壌の活性化と肥沃化とを連動させなければなりません。その時、バイオビリオン・イネ科植物の果たす役割(機能)、すなわち土壌活性化と微生物増殖作用の有効性がフットライトを浴びることになります。
 このようにバイオビリオンの存在は、それ自体が「主役」とはいえないまでも、主役である植物機能の弱点を消去することにより、主役の持続性を確保する意義を発揮する結果をもたらすのです。一種の「システム・パラメーター」とでもいえましょうか。  

 「できるだけ速く」ということからは、光合成速度の課題が浮かび上がります。そのためにはC4植物(注)の活用がポイントになります。ただし、この種の植物は活発に生命作用を営むことにより、土壌を貧困化させる恐れが発生します。したがって、土壌の活性化と肥沃化とを連動させなければなりません。その時、バイオビリオン・イネ科植物の果たす役割(機能)、すなわち土壌活性化と微生物増殖作用の有効性がフットライトを浴びることになります。
 このようにバイオビリオンの存在は、それ自体が「主役」とはいえないまでも、主役である植物機能の弱点を消去することにより、主役の持続性を確保する意義を発揮する結果をもたらすのです。一種の「システム・パラメーター」とでもいえましょうか。  

(3)C3植物の活性化

 C3植物の活性化については、これまで行ってきた方法での「バイオビリオン」技術の一層の適応が有効となります。樹木医学では衰退樹木の活性化に焦点が当てられてきましたが、除染のための環境医学技術において植物を活用したり指標にする場合、それを常に最高の状態の健康度で育成することに力点を置かねばなりません。たとえばドイツ流のヒマワリ単独、あるいはヒマワリ→カンバ類の植生管理技術の有効性を評価するか否かのいずれに立つにしても、植物の活力度の向上を図り続けることは至上命題となります。まして表土を除去して除染した場合には、明らかに地力が低下します。そのために除染のみならず対策後のフィードバックが必須課題になります。
 活力度が向上すればそれだけ除染後の土地生産力が増大することになり、C4植物の利用と両輪となるC3植物の役割が鮮明になります。この成果は除染のみならず、温暖化防止にも役立ち、二重の意味での環境医学効果に連動していくのではないでしょうか。

(4)原発至近地および発電所敷地内除染への展開

 以上に提起させて頂いた方法は、まずは被災地の生活と生産環境の確保を図るための早期除染を目指すものですが、適用地域を拡大しつつ、汚染中心部を包囲し、最終的には発電所敷地内の除染を達成する方向に向かわねばなりません。
 私が見たドイツの事例でも、担当者は「まだ汚染中心部までは行けません。そこにたどり着くまで私たちの仕事は続きます」と語っていました。手を拱いてみているのではなく、まずできることから実行し、改良を加えていく、そのための技術根拠は必ず既成の知見の中で見いだしうるものだ、私はかつてドイツでそう学びました。我が国内でも不幸な事態が生じましたが、私たちの知恵と技術を結集して少しなりとも解決につなげていきたいと考えています。
 バイオビリオンにかかわってきたひとりの科学者・技術者として提言させて頂きました。

 
 
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